財政の拡大が金融政策を阻害する

「財政と金融を同時に緩和すると相乗効果がある」とまことしやかに世間では語られていますが、これはまったく根拠のない話です。
確かに世界的に有名な学者もそのように述べていますが、根拠を出していません。
理論的に、或いは実証的に、この主張を説明している例はまったくありません。
安倍政権は、この主張を、「財務省出身の『優秀な』アドバイザーが言っているから」「世界的な学者が述べているから」という理由で安易に採用してしまい、経済を停滞させています。
本予算の前倒し執行や補正予算の執行によって財政を拡大した4~6月期の方が、1~3月期よりはるかに成長率が低いという有様です。
あと二週間ほどで二次速報が出ますが、今のところ大きな上方修正はない、という予想がたっています。
1~3月期も原油価格は低かったですし、円高傾向でもありましたが、プラス成長でした。
4~6月期に成長率が激減したのは、財政の拡大以外に要因がありません。
ほかの要因は特に変わっていないはずです。

債の追加発行で住宅ローン金利が上昇

大手銀住宅ローン金利5カ月ぶり上げ 金融政策の先行きに不透明感
SankeiBiz 8月30日(火)8時15分配信
 三菱東京UFJ銀行と三井住友信託銀行は29日、9月に適用する住宅ローン金利について、期間10年固定型の最優遇金利を引き上げると発表した。日銀の金融政策の先行きに不透明感が増していることを背景に、指標となる長期金利が上昇したことを反映する。みずほ銀行も追随する方針。市場動向などを踏まえ、各行は5カ月ぶりの引き上げに踏み切る

マスコミは長期金利が上昇した原因を金融政策のせいにしていますが、これは財政政策のために国債の追加発行を決めたからです。
財政政策が金融政策の効果を阻害する実例が典型的に現れたと言って良いでしょう。
財政を拡大すると金利に上昇圧力がかかる、というのは教科書に掲載されているくらいですから、相当程度、一般性のある事柄です。
金融政策は実質金利を下げることで効果をあげると言われていますから、財政政策が金融政策を阻害する、という考え方はむしろ普通のことです。
それがどういうわけか、財政と金融は相乗効果があるということになっていて、そのメカニズムを誰も説明していないにも関わらず政策に反映され、そして失敗しています。

調に回復しているのは、緊縮財政+金融緩和をしている国と地域

アメリカやイギリスが緊縮財政と金融緩和の組み合わせで順調に回復した、というエントリは腐るほど書きましたし、検索すれば誰でもそのデータを参照できますので今回は言及しません。
緊縮財政と金融緩和の組み合わせで回復の途上にあるのはユーロ圏ですが、積極財政主義者が政界・官界・財界・マスコミ・ネット・一般人の大半を占める日本では、ユーロ圏の回復を隠蔽したいのか、ほとんど報道されなくなっています。
危機のころには、みんなこぞって発言していましたが。
「緊縮財政は景気を悪くする」「財政をやらないと景気は回復しない」と言い張ってきた積極財政主義者にとって都合の悪いことに、ユーロ圏の回復は今も続いていますし、そのペースは、財政をむやみに拡大している日本よりも順調です。
ユーロ圏の金融緩和は2015年3月に始まりましたが、それによって失業者は100万人以上減少。
tradingeconomics.jp
1年半で、失業率が1パーセント以上減少しています。
fx.minkabu.jp
翻って日本は、アベノミクスが開始された2013年から、まだ1パーセント未満の低下率でしかありません。
ecodb.net
日本はGDPの7~5%にものぼる財政赤字アベノミクスの期間も出し続けているというのに。(アメリカとイギリスは4%くらい)
ユーロ圏は現在、GDPの2%の財政赤字でしかないというのに。
財政を出すと経済が良くなるはずなのに、どうしてこのような逆転が発生しているのでしょうね?
このような矛盾を誰も説明できないのが積極財政主義なのです。
世界的な経済学者ですら、この矛盾をまったく説明せずに頬かむりしています。
ユーロ圏の四半期GDPは、年率1.6%増。
fx.minkabu.jp
日本は先進国の中では、プライマリーバランスの赤字がぶっちぎりの最下位。
しかも今年はさらに財政赤字を拡大して財政支出に励んでいるというのに、年率0.2%増などという恥ずかしい数字。
「殺人的緊縮財政」のユーロ圏に圧倒的に負けているというこの現実。
積極財政主義者のうち、この現実が説明できる人間が世界に一人もいないという・・・
それにも関わらず、政策には安直に反映されてしまうという恐ろしい現状・・・
日本のGDP成長率が低い原因を緊縮財政や世界経済に求める言い訳も盛んですが、ユーロ圏でも緊縮財政・消費増税・世界経済の影響を受けていながら、しかも金融緩和のペースは日本よりもゆるいのにも関わらず、圧倒的な順調さで回復しているという事実から、日本の財政主義者は必死で目をそらしています。
彼らが事実を直視するだけの誠実さを獲得する日はくるのでしょうか?

政を緊縮してマイナス金利を拡大すべし

ユーロ圏が日本よりも順調に回復しているのは、財政を適切に抑制していることと、マイナス金利の幅が大きいことによると私は思います。
それ以外にないでしょ?
財政を緊縮することと、マイナス金利の拡大は、ともに実質金利に低下圧力をかけますから、投資を均衡させる自然利子率がマイナス圏にあっても回復を始めることができます。
日本は逆に、財政の拡大によって金利上昇圧力をかけ、金融緩和の拡大を掣肘してしまっているので設備投資が伸びません。
財政の縮小とマイナス金利拡大がもっとも合理的な政策だと私は考えますが、現実にはこの真逆が行われるでしょう。
財政は無分別に拡大し、それを恒常化する構造改悪が行われ、マイナス金利は廃止されるのだろうと思います。
量的緩和は継続されるでしょうから、ボチボチとした回復が安倍政権の終わりまで続く感じになるのではないでしょうか。

名目成長率>名目金利 で財政は維持可能か

よく知られているドーマー条件は、

プライマリーバランスが均衡していて

2 名目成長率>名目金利

なら赤字財政は維持可能だというもの。
secwords.com
プライマリーバランスが赤字なら、その分も含めた高い名目成長率が必要になります。
名目成長率>名目金利の状態が安定的に続いていたのは1970年代であり、1980年代からは名目金利の方が高い時期の方が長く続きました。
http://www.murc.jp/thinktank/economy/archives/easy_guide_past/er_2006425.pdf#search='%E5%90%8D%E7%9B%AE%E6%88%90%E9%95%B7%E7%8E%87+%E5%90%8D%E7%9B%AE%E9%87%91%E5%88%A9'
http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/club/03/__icsFiles/afieldfile/2008/10/20/20060401_club07.pdf#search='%E5%90%8D%E7%9B%AE%E6%88%90%E9%95%B7%E7%8E%87+%E9%95%B7%E6%9C%9F%E9%87%91%E5%88%A9'

80年代から金利の自由化がすすみ、景気と金利が連動するようになったからだと言われています。
デフレ以前に名目成長率が金利を上回っていたのはバブル期ぐらいであり、名目成長率が金利を上回るのが普通になったのはデフレが始まってからです。
となると、名目成長率>名目金利を安定的に成り立たせるためにはデフレの方が良いということになってしまいます。
在野リフレ派は、「景気をよくして名目成長率>名目金利にすれば財政の維持は可能」と主張していますが、データをみると真逆であることがわかります。
ここでもまた、結論だけあって根拠がないという在野リフレ派の悪癖が見て取れます。
景気をよくすると金利の方が名目成長率を上回りがちであることに加え、プライマリーバランスを赤字のままにするなら、その赤字分も含めて名目成長率を高めなければならなくなります。
どのように実現するのでしょう?
しかも在野リフレ派は構造改革を「シバキ主義」と呼んで否定していますから、在野リフレの思想が政策に反映されると、生産力や生産性を上昇させる改革が行われなくなり、名目成長率は伸びにくくなります。

目成長率と政府債務はどちらがコントローラブルか

結論は明らかですが、歳出を減らすことで政府債務は抑制できます。意図して制御することが当然可能です。
歳出を減らしても景気回復が可能であることは、世界各地の先進国の様子で確認できます。
先日ユーロ圏の統計がでましたが、強い緊縮財政にも関わらず経済が継続して回復していることが分かります。
fx.minkabu.jp
多額の財政支出を続けている日本よりも、ユーロ圏の回復ペースの方が順調です。
マイナス金利に緊縮的な効果があるとしていた、在野リフレ派はどう説明するのでしょう。
また、緊縮財政が国民生活を劣化させるとして反対する論者もいますが、現在の日本が行っている多額の財政支出は、リーマンショック後に急増した分を含んでいます。
そこには不要不急の、「景気対策のためのとりあえずの支出」が含まれているのですから、削っても構わないはずです。
ユーロ圏やカナダなみに財政赤字を減らすのは厳しいでしょうが、アメリカやイギリス並みにはするべきでしょう。
日本はGDP比で5%ほどの財政赤字を出していますが、英米なみに4%までとりあえず減らすべきでしょう。
ユーロ圏やカナダの財政赤字は2%ほど、英米は4%の財政赤字で経済の回復に成功しつつあるというのに、5%の財政赤字を出しながら「景気が悪い」*1として、さらに財政出動をしようとしていることには正当性がありません。*2
一方、名目成長率の制御は難しいでしょう。
インフレ率の制御に現在とても苦労していますが、ここに実質成長率の制御も加わります。
この二つを名目金利以上に安定的に保つようコントロールするのは常識的にいって非常に難しいでしょう。
実質成長率とはコントロール可能なものなのでしょうか?
そもそも名目金利がどの程度上昇するのか予想するのも正確にできるわけではないでしょう。
現在は金融緩和によって金利が低く保たれていますが、景気が良くなれば別の要因で金利は上昇します。それは意図して上昇させるものではない以上、どれほど上昇するか分からないもののはずで、制御もできないと思います。
また、在野リフレ派が好む財政出動も、景気の良い時期に行うと金利に上昇圧力をかけます。
名目成長率>名目金利、によって財政を維持しようという政策は、「これから先1年間に名目金利はこれくらいになるから、名目成長率は1年間でこれくらいにしよう」というものになりますが、金利の予想も名目成長の制御も思い通りにいくものだとは思えません。
こんなことが可能であるなら、すぐにやれば良いのではないかと思います。
現実には名目成長率の目標3%も、アベノミクスが始まって以来達成できていません。
そして、財政赤字を持続可能にするために名目成長率を高める、という発想はリフレーション政策やインフレ目標と整合しません。
財政を使いたい放題に使う政策を維持するために名目成長率を高める努力をする、というのは財政中心の政策観ですから、これはリフレーション政策とは呼べません。
また、財政赤字の持続に必要な名目成長率が非常に高いものになった場合、そこに必要なインフレ率は目標を大きく上回る可能性があり、インフレ目標でインフレ率を安定させるという目的とは矛盾します。
必要な名目成長率が6%とか7%になった場合には日本のような成熟した経済にとっては過剰な金融政策と財政政策が行われることになります。
悪性インフレやスタグフレーションに陥る危険が高いと言えるでしょう。

*1:私はそう思いませんが

*2:ただ、10兆円だか20兆円だかの補正予算はやってみれば良いと思います。一度やってみないことには水掛け論が続きますから

積極財政主義が消費増税を招く

2014年の消費増税のときに賛成にまわった山本幸三議員が、一時は反対派になったものの、またも消費増税賛成にまわるという手のひら返しを行いました。
山本議員の動向には、増税が行われるときには賛成、延期されるときには反対、という具合に勝ち馬に乗り続ける戦略が見て取れますから、2017年の増税も行われる気配が強まったと見て良いのでしょう。
山本議員は巷間、「経済学や経済政策に詳しい」という評判をとっていますが、実際には場当たり的で聞きかじりの知識を振り回しているにすぎず、これまでにも質の低い経済談義を繰り広げてきました。
見かけだけのいい加減な主張をする人間を神輿に担いで、いざというときに大失態に見舞われるというパターンは田母神と同じでありますが、今回山本氏が展開している消費増税賛成論は、積極財政主義者の主張をうまく利用したものになっています。

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1)増税は予定通り実施し、当面10%で打ち止めと宣言
2)16年度補正予算で10兆円の景気対策と5━10兆円の熊本地震対策基金を設立
3)17年度10兆円、18年度7兆円を本予算に計上、消費増税分はすべて還元する形で給付金約4兆円を支給
4)給付金は年金生活者・低所得者・子育て世代中心に所得再分配政策として実施し、住宅・自動車購入者に2%分還付
5)財源はマイナス金利を活用し、原則国債発行

上記提言のうち1以外は積極財政主義者の意見ときわめて類似したものになっています。
積極財政主義者は山本氏の提言にどのように反論するのでしょうか?
これらの提言を実行しても消費増税の悪影響を消すことはできない、と反論してしまうと、それはそのまま、積極財政主義者が2014年の消費税による悪影響を打ち消すものとして挙げてきた政策にも効果がないということになってしまいます。
「2014年の増税では対策の量が足りなかった」とか「財政の失敗には財政で対処するしかない。金融政策は効かない」と積極財政主義者は主張してきましたが、山本氏の提言は2017年の増税の悪影響を打ち消すのに量的には「十分」であるはずですから、山本氏の増税論に賛成するしかなくなってしまいますね。
或いは、山本氏の提言を凌駕するような量を提案するのでしょうか?
30兆?40兆?
既得権者は大喜びするでしょう。
積極財政に固執する限り、結局は一般国民を苦しめて、既得権に奉仕することになるわけですね。
ま、積極財政主義者は山本氏の提言を無視するだけでしょう。
都合の悪いことにはすべて頬かむりをしてしまいますから、積極財政主義者は論理的に負けることはありません。