永久債にできる政府債務はお幾ら?

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日銀保有債務を永久債にする案に私は全く反対で、理由は、永久債は購入者が償還を要求できないからです。
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政府が日銀に永久国債を買わせると、政府が償還に応じない限り、日銀は永久にそれを保持しなければいけません。
これは日銀の独立性を侵犯するものですが、スティグリッツとリフレ派は中央銀行の独立性を奪っても良いと考えているので、永久債を提唱しているわけです。
日本では日銀の不作為によって20年デフレを経験したことから、デフレ防止策として日銀の独立性をはく奪せよという意見が出てくるのですが、そうすると内閣や国会にインフレ制御の責任が出てくるという面については無視しています。
永久債を日銀に引き受けさせる決定をするのは内閣と国会ですから、永久債の額が多すぎてインフレ高進を招いたら、内閣と国会が永久債を「適正に」減らさなくてはなりませんが、そんな能力があるのでしょうか?
いまの日銀でも、インフレ率のコントロールに必要なマネタリーベースをつかめずにいるというのに、誰に訊くつもりなのでしょう。
とあるリフレ派は、「今後どんな人手不足になったとしても、日銀保有国債のうち、決して売りオペで民間に出ていくことのない「根雪」の部分は永久債に換えてしまう(超高額コインに換えてもいい)ことは、何の弊害ももたらしません。」と主張しています。
もし「根雪」の額が分かれば、そらそうでしょう。
ただ、「根雪」などという比喩を用いている点を見ると、マネタリーベースの適正額など把握できていないのではないかと私は疑います。
スティグリッツは、「毎年5%ずつ永久債にせよ」と主張していましたが、どういう根拠で5%なのかは不明です。
現在マネタリーベースは450兆円ありますから、5%ルールを適用すると毎年20兆円ほど永久債になります。単純にいって5年で100兆ですか。
ここにマネタリーベースの時系列データがありますが、100兆というと、小泉政権後半くらいの額になります。
小泉政権後半からリーマンショックまで日本の景気は割と良かったですが、その時のマネタリーベースに当たります。
また、小泉政権終了後にマネタリーベースは90兆円くらいに低下していますが、景気は逆に良くなっています。
これは当たり前の話ですが、マネタリーベースと景気は比例関係にあるわけではなく、景気の結果マネタリーベースが定まってくるということを表しています。
さらに見ていくと、皆から「デフレ大王」などと言われていた白川正明日銀総裁の時代の末期には、マネタリーベースは130兆円にまで拡大しています。
麻生政権期よりも民主党政権期の方がマネタリーベースは40兆円も増えたのにも関わらず、円高・デフレ・深刻な不況、に見舞われていたのであります。
この場合もやはり、マネタリーベースと景気が比例しているのではなく、不景気対策として金利を下げた結果としてマネタリーベースが拡大したことが分かります。
要するに必要なマネタリーベースの額は、経済状況と相対的に決まるのであって、「適正額」をあらかじめ算出することなどできるわけがないのです。
リフレ派のいう、「マネタリーベースの根雪」が、政府債務を軽くするのに十分な額であるとしたら、それはおそらく多すぎます。
現在の名目GDPの額は小泉政権期と大差ありませんが、マネタリーベースは4倍になっています。
400兆円を永久債にしたら多すぎるでしょう。400兆の永久マネタリーベースで景気回復を迎えてしまったら、インフレ高進を招くでしょう。
目分量で150兆円にしたら、「いいのかもなぁ」と感じられますが、150兆円では政府債務を軽くするのには少なすぎるでしょう。
80年代、比較的日本の調子が良かった時期のマネタリーベースの増え方を見ていると10年くらいで10兆円増える程度の緩やかなペースです。
2013年から現在に至るまで、マネタリーベースは130兆から450兆に急増しています。
2%インフレ目標を達成して、完全雇用状態になったらおそらく、マネタリーベースを減らしていく必要があると見るのが普通です。
景気が良くなると貨幣流通速度がほんの僅か上がりますが、それで大きな影響がでるはずです。巨大なマネタリーベースがあると、必要な貨幣をいくらでも素早く供給できてしまうので、急速なインフレが発生する可能性もあるでしょう。
FEDが2015年に利上げに踏み切ったときに、「早すぎる」と批判する声が多かったですが、結果的には適切でした。その後も利上げを繰り返し、いまも利上げのスピードアップを仄めかしていますが、アメリカ経済は好調です。
さらに、マネタリーベースを減らす意向もちらつかせていますが、やはり悪影響は出ていません。
それらの現実の事例を鑑みると(リフレ派は現実を見るのがとても苦手ですが)、巨大なマネタリーベースを永久債にするどころか、景気を保ちながら相対的にマネタリーベースを減らしていく期間がかなり長く続き、(10年くらいかかるような気がしますが)、その後「根雪」が判明するのだろうと思います。
そうなったらその部分を永久債にしても良いのでしょうが、おそらくそれは100兆円足らずの額であり、政府債務を軽くする意味はほとんどないと思います。