名目成長率>名目金利 で財政は維持可能か

よく知られているドーマー条件は、

プライマリーバランスが均衡していて

2 名目成長率>名目金利

なら赤字財政は維持可能だというもの。
secwords.com
プライマリーバランスが赤字なら、その分も含めた高い名目成長率が必要になります。
名目成長率>名目金利の状態が安定的に続いていたのは1970年代であり、1980年代からは名目金利の方が高い時期の方が長く続きました。
http://www.murc.jp/thinktank/economy/archives/easy_guide_past/er_2006425.pdf#search='%E5%90%8D%E7%9B%AE%E6%88%90%E9%95%B7%E7%8E%87+%E5%90%8D%E7%9B%AE%E9%87%91%E5%88%A9'
http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/club/03/__icsFiles/afieldfile/2008/10/20/20060401_club07.pdf#search='%E5%90%8D%E7%9B%AE%E6%88%90%E9%95%B7%E7%8E%87+%E9%95%B7%E6%9C%9F%E9%87%91%E5%88%A9'

80年代から金利の自由化がすすみ、景気と金利が連動するようになったからだと言われています。
デフレ以前に名目成長率が金利を上回っていたのはバブル期ぐらいであり、名目成長率が金利を上回るのが普通になったのはデフレが始まってからです。
となると、名目成長率>名目金利を安定的に成り立たせるためにはデフレの方が良いということになってしまいます。
在野リフレ派は、「景気をよくして名目成長率>名目金利にすれば財政の維持は可能」と主張していますが、データをみると真逆であることがわかります。
ここでもまた、結論だけあって根拠がないという在野リフレ派の悪癖が見て取れます。
景気をよくすると金利の方が名目成長率を上回りがちであることに加え、プライマリーバランスを赤字のままにするなら、その赤字分も含めて名目成長率を高めなければならなくなります。
どのように実現するのでしょう?
しかも在野リフレ派は構造改革を「シバキ主義」と呼んで否定していますから、在野リフレの思想が政策に反映されると、生産力や生産性を上昇させる改革が行われなくなり、名目成長率は伸びにくくなります。

目成長率と政府債務はどちらがコントローラブルか

結論は明らかですが、歳出を減らすことで政府債務は抑制できます。意図して制御することが当然可能です。
歳出を減らしても景気回復が可能であることは、世界各地の先進国の様子で確認できます。
先日ユーロ圏の統計がでましたが、強い緊縮財政にも関わらず経済が継続して回復していることが分かります。
fx.minkabu.jp
多額の財政支出を続けている日本よりも、ユーロ圏の回復ペースの方が順調です。
マイナス金利に緊縮的な効果があるとしていた、在野リフレ派はどう説明するのでしょう。
また、緊縮財政が国民生活を劣化させるとして反対する論者もいますが、現在の日本が行っている多額の財政支出は、リーマンショック後に急増した分を含んでいます。
そこには不要不急の、「景気対策のためのとりあえずの支出」が含まれているのですから、削っても構わないはずです。
ユーロ圏やカナダなみに財政赤字を減らすのは厳しいでしょうが、アメリカやイギリス並みにはするべきでしょう。
日本はGDP比で5%ほどの財政赤字を出していますが、英米なみに4%までとりあえず減らすべきでしょう。
ユーロ圏やカナダの財政赤字は2%ほど、英米は4%の財政赤字で経済の回復に成功しつつあるというのに、5%の財政赤字を出しながら「景気が悪い」*1として、さらに財政出動をしようとしていることには正当性がありません。*2
一方、名目成長率の制御は難しいでしょう。
インフレ率の制御に現在とても苦労していますが、ここに実質成長率の制御も加わります。
この二つを名目金利以上に安定的に保つようコントロールするのは常識的にいって非常に難しいでしょう。
実質成長率とはコントロール可能なものなのでしょうか?
そもそも名目金利がどの程度上昇するのか予想するのも正確にできるわけではないでしょう。
現在は金融緩和によって金利が低く保たれていますが、景気が良くなれば別の要因で金利は上昇します。それは意図して上昇させるものではない以上、どれほど上昇するか分からないもののはずで、制御もできないと思います。
また、在野リフレ派が好む財政出動も、景気の良い時期に行うと金利に上昇圧力をかけます。
名目成長率>名目金利、によって財政を維持しようという政策は、「これから先1年間に名目金利はこれくらいになるから、名目成長率は1年間でこれくらいにしよう」というものになりますが、金利の予想も名目成長の制御も思い通りにいくものだとは思えません。
こんなことが可能であるなら、すぐにやれば良いのではないかと思います。
現実には名目成長率の目標3%も、アベノミクスが始まって以来達成できていません。
そして、財政赤字を持続可能にするために名目成長率を高める、という発想はリフレーション政策やインフレ目標と整合しません。
財政を使いたい放題に使う政策を維持するために名目成長率を高める努力をする、というのは財政中心の政策観ですから、これはリフレーション政策とは呼べません。
また、財政赤字の持続に必要な名目成長率が非常に高いものになった場合、そこに必要なインフレ率は目標を大きく上回る可能性があり、インフレ目標でインフレ率を安定させるという目的とは矛盾します。
必要な名目成長率が6%とか7%になった場合には日本のような成熟した経済にとっては過剰な金融政策と財政政策が行われることになります。
悪性インフレやスタグフレーションに陥る危険が高いと言えるでしょう。

*1:私はそう思いませんが

*2:ただ、10兆円だか20兆円だかの補正予算はやってみれば良いと思います。一度やってみないことには水掛け論が続きますから