財政再建は完了していない。

衆議院公聴会高橋洋一氏が出席して、①財政再建は完了 ②教育国債を発行せよ ③天下りを禁止せよ という話をしたそうです。
ユーチューブで動画は全部見て、③は賛成、②は疑問、①は大反対 という感じでした。
動画を引用して批判記事を書こうかと思ったのですが、高橋氏が公聴会の内容について記事にまとめていたので、そちらにしました。
一応動画。

これが記事。
diamond.jp
上念氏はいつもの如く尻馬。


批判を待っているとのことでしたので、メンションしておきましたが、無視されるでしょう。
いつものことですが、リフレ系の人たちは事例も理論も何も示さず、結論だけ仲間で唱和するという態度。
そういうことではまともな論議はできません。

ィリップスカーブ

伝統的な財政と金融の分離モデルは、財政は、政府のバランスシート(BS)の右側(負債)だけのグロス債務またはグロス債務残高対GDP比に着目して、増税や歳出カットによって財政再建をしようというものだ。この場合、金融政策は、物価と失業の逆相関関係をいうフィリップス曲線を前提とすれば、物価水準を見つつ、金融緩和をしたり引き締めたりしながら完全雇用を達成する、財政政策と金融政策がそれぞれ独立して考えられているモデルだ。

高橋氏はだいだいいつも、フィリップスカーブが成り立つことを前提に金融政策の有効性を論じますが、フィリップスカーブは別に成り立つ必要はありません。
現在の日本で成り立っていませんし。
第二次安倍政権が始まって以来、インフレ率は伸び悩んだりマイナスになったりしていますが、雇用はじわじわ伸び続けています。
金融政策は高橋氏が考えている以上に効果があるということですし、高橋氏は金融政策の効果の出方について誤った見方をしていると思います。
インフレ率が上がるから雇用が伸びるのではなく、雇用が伸びきったあとにインフレ率が伸びるのだろうと思います。
日本に限らず、フィリップスカーブが成り立っていない国は珍しくないです。

ニョリッジについての誤り

財政収入の中には、税収ももちろんあるが、そのほかに税外収入として、中央銀行の納付金がある。つまり、中央銀行が銀行券を発行した対価として買い入れた手形や国債などから得られる利息収入などの通貨発行益である。この毎年の数字は小さいが、FTPLのように将来の足し算をする場合には大きくなる。細かい数学テクニックは省くが、足し算すると通貨発行額に相当する。

中央銀行が貨幣を発行する場合、シニョリッジは金利分だけであって、政府紙幣とは違います。
江戸幕府が貨幣改鋳でシニョリッジを得ていた仕組みとは違います。
これは別に難しいことではなく、中央銀行が貨幣を発行する場合、民間から国債を買う代わりに貨幣を民間に手渡します。
金利のつかない貨幣⇔金利のつく国債
という関係。
中央銀行は買った国債から金利収入を得て、それは政府に納付します。これがシニョリッジです。
では、金利以外の元本部分がなぜシニョリッジでないかというと、いつでも貨幣と国債の交換ができるからです。
貨幣には償還期限がありませんが、これは償還しないという意味ではなく、償還するにせよ、しないにせよ、期限がないというだけの話です。
償還しても良いのです。
高橋氏はおそらくこの辺を誤解しています。
政府が民間から貨幣を集めて中央銀行に渡す代わりに国債を引き取って、お互いに貨幣と国債を消滅させたり、中央銀行が民間に国債を売って代わりに貨幣を回収したりできます。
中央銀行が発行した貨幣を政府が使うわけではありません。
それはむしろ逆で、政府は金を借りて使ってしまった後であり、その証文が国債です。
その借金証文を中央銀行が引き取る代わりに、金を貸した人に対して貨幣を発行しているのです。
政府は金を使ってしまった後なので、さらに発行した貨幣を収入とすることはできません。
ふつうの状態なら政府は中央銀行に対して償還します。借金の肩代わりをさせたわけですから、金を中央銀行に向かって返すわけです。
これをやらないとインフレが高進して経済が壊れるということになりますが、今はたまたま日本はデフレ脱却局面にあるので、当面は償還を考えなくて良いという話にすぎません。
永久に貨幣の回収をしないなどと日銀は一言も言っていません。
したがって、将来にわたって金利収入を足し算する、などというのはナンセンスです。
もしそうなるなら、未来永劫インフレが起こらないという意味になるので、リフレ政策は失敗という意味になります。

税権が750兆円?

上の記事で最も意味不明で驚いたのが、徴税権が750兆円という部分。
どういう計算をしたのでしょうか?
時間の流れをどのように想定した数字なのでしょう。
日本の歳入は62兆円くらい(税収以外の収入も入れて)なので、750兆というのは、十数年分の歳入まるごと分ほどの数字です。
まるで意味が分からない数字の当て方なのですが、どうせ誰も説明しないのでしょう。
現に存在している政府債務の引き当てに、この意味不明の750兆が充てられると百歩譲っても、財政赤字というのは毎年の歳入より歳出が多くて借金が毎年必要になるという問題ですから、徴税権とやらが1000兆あろうが2000兆あろうが、毎年借金が膨れ上がっていくことに違いはありません。
変化の話だということです。

下り先を売る・・・

資産で売れないものがあるなどという批判はあり得る。、資産の大半は金融資産、これは、後で述べる天下りに関係するが、天下り先への出資金、貸付金が極めて多い。「資産として売れない」というのは、天下り先の特殊法人や政府子会社を処分しては困るという、官僚の泣きことである。

https://www.mof.go.jp/faq/seimu/03.htm
貸付金は百何十兆円かあるのですが、これは財政投融資なんですよね。
財政投融資は確か、高橋氏の発案で行われるようになったと高橋氏自身が言っていたと思うのですが。
貸付金の対象になっている政府子会社を民営化すると、財政投融資で景気回復、といったことができなくなるのですが、良いのでしょうか。
出資金は、独立行政法人国立大学法人、国際機関等に対するものなので、これはまぁ、独法に対するものはカットしてもいいのかなと思わなくもないですが、数十兆円しかないので、政府債務の引き当てにするには少なすぎます。
ですから、

資産が900兆円あるが、これは既に述べたように大半は金融資産である。その収益はほぼ国債金利と同じであり、この分に相当する収入が税外収入として、政府(国庫)に入ってくる。

という部分は完全に誤りですね。
政府資産のうち、処分できるものはせいぜい数十兆円に過ぎません。
ただし、

また日銀の保有国債400兆円であるが、この分は、日銀に対して利払いはするが、結局は日銀納付金として政府に税外収入で返ってくる。

この部分は正しいです。
ゆえに、量的緩和は同時に財政政策だと言われるのです。

利が低いと金融政策が効かない?

シムズ氏は、ゼロ金利では金融政策では制約もあると言う。これも、統合政府の見方から、簡単に導かれる。今のようなゼロ金利の世界では、中央銀行によって得られる毎年の通貨発行益はわずかしかない。このため、国債を増発しても財政政策で有効需要を作ることが必要になってきて、財政政策の併用も必要なのだ。国債発行による財政政策がどうしてもイヤというなら、政府紙幣発行による財政政策でもいい。

これを言ってしまうとリフレ政策の否定なんですけどね。
金融政策に通貨発行益が必要という部分は、金利がゼロになると国債と貨幣が完全代替という話で、これを言う学者は多いですが、どうも疑問ですね。
リターンがゼロで同じでも完全代替にはならないと思いますが。
実際、国債金利がゼロになっても日本国債は人気があるのですし、だからこそ高橋氏は「財政再建しなくても大丈夫」と言うわけでしょう?
本当に完全代替なら、いまごろ日本国債の人気は低下して、それこそFTPL的なインフレが起こり始めているはずです。

債を発行しないと金融引き締めになる?

マネタリーベースを増やすと、貨幣乗数はゼロ以下になることはないのでしょうから、マネーストックも増えることになります。どの程度増えるかは、お金を必要としている企業や個人がどれくらいいるか、銀行の貸し出し態度や証券投資の態度はどうか、ということに左右されます。
今のような、国債の買い取りの代わりに貨幣を発行するという方法以外も日銀はやろうと思えばできるはずなので、国債発行しないと買取資産がなくなって金融引き締めになるという論理はおかしいと思うのですが、仮に国債の買い取り以外はしないとしてみましょう。
発行済みで、買える国債は全部買ってしまい、毎年発行される国債も日銀が買える分は全部買ってしまい、それ以上買取速度を上げられないという状態になったとします。
その場合、民間銀行は超過準備が腐るほど溜まった状態で、もう買える国債がないということになります。
日本の場合、超過準備の大半に短期国債と同じ金利がついてしまうので、銀行は何もしないということになりますが、そういう甘やかしをやめて、超過準備への金利はゼロ、そのうちの10兆円には現行通りのマイナス金利をかけるとしてみたら?
銀行は貸出や証券投資を増やすと思いますけどね。自分たちの収入を増やすために。
(銀行以外の経済主体も国債に投資できないので、他の資産に投資を始めるはずで、これは経済活動を活発にするでしょう。)
そう考えるのが自然でしょ?
自然というか、そう考える以外にないと思うのですが。
結局、国債発行しないと金融引き締めになるとかいう話は、リフレ系がマイナス金利の意義を理解していないところから来ているだけなのです。

国債天下り規制

教育無償化と教育国債については疑問が多々あるのですが、財政再建完了論の問題に比べたらどうでもいいので、元気な時にぼちぼち書こうかと思います。もう眠い。
天下り規制は頑張ってほしいですが、反撃はあるでしょうね。
もうすでに反撃されているような気配もありますが。

麻生政権下でマンデルフレミング効果?

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この間2016年10~12月期GDPの一時速報がでました。
併せて、2016年の暦年GDPも一報がでましたね。
そこに表れた傾向は、2015年末からリフレ参与・リフレ議員・巷のリフレ系が煽っていた政策がすべて外れたことを示すものでしたが、リフレ系の人々は自分たちに都合のよい思い付きを述べ続けています。
反省の色なし。
ぜんぜん効果がなかったのにも関わらず、リフレ系が正当化に躍起になっているのは、「金利ターゲットと財政政策の連動」。
金利ターゲットは導入されて半年経ちますが、リフレ系が想定する形での作動を一回もしていません
今まで二回反応したのは、いずれもアメリカの経済動向に対してであって、日本の政策に対してではありません。
リフレ系は学者も含めて、「金利ターゲットがうまく作動した」と宣伝していますが、ウソをついています。
金利ターゲットは、「財政政策で名目金利が上がったら、自動的に金融緩和が行われて金利の上昇を防ぐ」、という意図のもとに導入されたのですが、財政政策を行っても名目金利が一向に上昇しないので作動できないのです
長期金利が上がっていますが、これは「上げよう」という意図をもって長期国債の発行を増やしたり、長期国債の買い入れを減らしたりしたからであって、財政出動のせいではありません。

生政権下での円高がマンデルフレミング効果?

機能しない金利ターゲットを正当化する意図で、「麻生政権は財政出動ばかり行って金融緩和をしなかったためにマンデルフレミング効果で円高になった」という説を流しているリフレ系の人がいますが、マンデルフレミング効果は、実質長期金利の影響で起こるので、リフレ系が問題にしているような名目金利の話とは違います。
麻生政権は2008~2009年ごろありましたが、そのころの長期金利とインフレ率の推移。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/meeting_of_jgbsp/proceedings/outline/131122pdset_2.pdf
ecodb.net
当時の長期金利は2008年6月に一時的に上昇しましたが、基本的にはそれ以前より下がる傾向だったことがわかります。
財政出動で名目長期金利が上昇した」とは言えません。
この点で、リフレ系が想定しているような「金利ターゲットと財政出動の連動」は事実に照らしても効果が疑わしいとわかります。
インフレ率は2008年から2009年にかけて急激に低下しているので、これは実質金利を上げる要因でした。
しかしこれは景気の急落によって引き起こされたのであって、財政出動とは関係ありません。
要するに、「麻生政権のころに財政政策によりマンデルフレミング効果が現れた」という説は誤りだということです。
当時は確かに円高であり、それが日本経済に悪影響を及ぼしていましたが、円高の原因はマンデルフレミング以外にも存在するのですから、それらを度外視する理由がありません。

川日銀と金利ターゲットの類似性

この時期に白川日銀は超過準備に付利を行い、短期金利が0.1%程度にとどまるように「下限」を作りました。
名目金利を下げて、実質金利も下げるという方法が制限されたわけです。
これは非合理的な政策であって、FTPLのコクラン氏も、「超過準備への付利はインフレを抑制する」と述べています。
インフレを抑制するということは、実質金利が下がらないということです。
このような事情があるからこそ黒田日銀は超過準備への付利をマイナスに転換したのですが、金融業界とリフレ系が強く反対しました。
半年後に金利ターゲットとマイナス金利の弱体化が発表されましたが、それはマイナス金利の効果が指標で確認される前に決まっていました
黒田日銀自身がわずか半年で政策を180度変えるわけがないので、これは安倍政権が介入したものと思われます。
金利ターゲットは金利の上限と下限を決める政策ですから、手法は違いますが意図は白川日銀と半分は同じです。
リフレ系と安倍政権は金融政策に関して金融業界の利益を国民生活よりも優先すると決めたわけで、これは白川氏が正しかったと認めたのと同じです。
その証拠に、金利ターゲット以降に銀行の純利益は増えた一方で、住宅投資は激減し、2016年のGDP増加率は、2015年の増加率を下回りました。
金融政策も財政政策も、金融業界のために割り当てたのですから、当然の帰結といえましょう。

シムズ氏の貴重な教え(リフレ系は全然理解してない教え)

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FTPLについてリフレ系の人たちがほとんど言及しなくなりましたが、リフレ系の良いように利用できなかったので黙殺し始めたのだろうと思います。
いつものことです。
リフレ系は、彼らのポジション的利益のために無分別な経済政策を正当化しようとシムズ氏の権威を利用しようとしましたが、シムズ氏の残した教えは、きちんと読めば逆の示唆を含んでいます。
jp.reuters.com

  1. 政府債務はインフレで相殺される。インフレとはある種の税である
  2. 日銀が大きなバランスシートを抱え続けるのはよくない

インフレがある種の税だ、というのは標準的な経済学でも教えているので、特に珍しいものではないのですが、リフレ系はふだん、「政府債務は何の負担もなく消滅させることができる」と人々にウソをついているので、その辺にクギ刺す指摘なのです。
インフレで政府債務を相殺する、というのは、「インフレで負担する」という意味です。
インフレで物価が上昇するということは、商品を買う力が減る、ということです。
商品を買う力を2~3パーセント手放して、それによって政府債務を軽くするわけです。
具体的には、2~3%のインフレになると名目GDP(価格×生産量)が大きくなり、「名目GDP×税率=税額」の、税額が大きくなるので政府債務の返済がしやすくなるということであります。
2~3%のインフレの状態は、好景気であると期待できるので*1、インフレ率以上に私たちの所得が伸びるだろうという期待も持てるので、差し引きすれば、商品を買う力は増えるだろうという楽観的予測です。
例を挙げれば、好景気で給料が毎年4%伸び、そのうち2~3%はインフレで吸収され、結果的に商品を買う力は毎年1%増えるでしょう、という筋書き。
私は本来のリフレーション政策を支持しているのですが、敢えて書いておくと、人によってはマイルドインフレの世の中で損をすることはあります。
給料がどれくらい上がるかは、その人がどんな会社に勤めているかに左右されるので、もしその人の給料が毎年1%しか上がらないのであれば、その人は毎年、商品を買う力が下がっていきます。それによって政府債務を負担しているということになります。
いい加減なリフレ系の言うような、誰もが何の負担もせずに政府債務を消す方法などありはしないのです。
そんな方法があれば、世界中の国が無限に財政支出を増やすことでしょう。
そうなっていないことが、リフレ系のウソを端的に証明しています。
上記の「日銀が大きなバランスシートを抱え続けるのはよくない」という部分も、リフレ系の従来の主張を否定するものです。
リフレ系は、政府債務を日銀に買わせて、永久に乗換させれば債務は消えたも同じ、というウソを繰り返してきましたが、シムズ氏に言わせれば、それはよくないということなのです。
日銀の損失を政府が埋めることになると、独立性を否定する議論が出かねないという意味に読めます。
リフレ系は「日銀の独立性なんぞ剥奪してしまえ」と軽薄に叫んでいますから、何とも思わないのかもしれませんが、政治家や官僚が金融政策まで取り仕切るのは非常に危ないことだろうと思います。

*1:この程度のインフレ率ならスタグフレーションにはならないだろうと期待されるという意味ですが。絶対そうなるかどうかは分かりません。経験則。