リフレ系が批判者を嘲弄するのは何故かを考える

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高橋洋一氏と上念司氏に顕著な特徴ですが、リフレ系(リフレ派の中でもいい加減な部類の人々。私の造語。)の人たちは批判を浴びると必ずと言っていいほど、「お前は経済学を分かっていない」「バカ決定」「この程度の数学が分からないのか」「本を読んでいない」「財務省の手先」「(笑)」といった嘲りを発します。
しかし、注意深く彼らの言動を観察すると、批判にまともに答えていないことが分かります。
議論を見ている人々に、「批判者の言うことは取るに足らないことなのだ」と印象付けて切り抜けようという戦術です。
リフレ系の支持者層も同じ戦術を踏襲しているので、彼らのツイッターやブログは常に嘲りの言葉が並ぶことになります。
酷かったのはマイナス金利を巡るやりとりで、マイナス金利政策を日本に紹介している論者(専門家)からツイッター上で直接メンションされたにも関わらず、議論に応じたリフレ系はゼロです。
高橋氏、上念氏、安達氏、など、ツイッターをやっているリフレ系で答えた人はいません。
にもかかわらず、リフレ系は「マイナス金利は効果がない」「有害」とマスコミやネットで根拠なく宣伝し続けました。
マイナス金利はリフレ政策のライバルであると見なして貶めたのだろうと思います。
マイナス金利政策が成功したら、経済時論でリフレ系が脇に追いやられますからね。
安倍政権はその中傷を真に受けたのか、マイナス金利を弱体化させる政策を日銀に強要したようです。
金利ターゲットのようなマイナス金利と矛盾する政策が僅か半年で採用されたのは不自然極まりないことです。

りを広めるリフレ系

高橋氏や上念氏は、「日銀が買った国債は消滅したのと同じ」と主張していますが、これは誤りです。
日銀は国債と交換に貨幣を外に出したのですから、政府の債務である国債の代わりに、日銀の債務である貨幣が出てきただけです。
これから先に日本の景気が良くなって、インフレ率の高進を制御する必要にかられた場合には、日銀が保有する国債を償還したり民間に売ったりして貨幣を回収しなければなりません。
貨幣には金利がつかず、償還期限もありませんが、債務であることには変わりありません。
もちろん、これから先の日本経済が永久に低調で、インフレ率がせいぜい2~3%で収まるのであれば、貨幣を永久に外に出したままでよいのでしょうが、そのようになるかどうかは誰にも分かりません。
高橋氏や上念氏のように、「日銀保有国債を永久にそのままにしておけ」という主張は、金融政策を無意味に制約するものであり、このような主張をする人たちが「リフレ派」を名乗るのはおかしいのではないでしょうか?
どう見ても財政政策を中心として、金融政策をその補完として考えています。

責任なヘリマネ称揚

私はヘリマネに全く反対です。
景気対策としての効果はあると思いますが、効果があればやってよいというものではありません。
国債を日銀に直接引き受けさせるという行為は、ある額の国債を発行するのを政治家が決め、同じ額の貨幣を日銀から引き出すということですから、金融政策の程度まで政治家が決めてしまうことになります。
金融政策の素養など全く持ち合わせていない政治家が金融政策を決めることになるのです。
ヘリマネをしてもよいという慣行が生まれ、法整備もなされてしまったら、万が一民進党共産党が政権をとったら、財政政策も金融政策も彼らが決めることになります。
それがどんなことになるか想像は容易でしょう。
上念氏がいつものごとく他者を嘲弄しながらヘリマネを推奨しています。

リフレ系のもう一つの特徴は、常に権威に頼る、ということであり、ヘリマネについても毎度おなじみ権威論証を行っています。
リンク先の論者は、「政府債務を日銀が買って永久保有することで帳消しになる」と述べているので、高橋氏と上念氏のネタ元なのだろうと思いますが、この人の発言内容は奇妙です。
まずこの人は、日銀保有債務を利子のつかない永久債に変えると述べていますが、利子がつくかどうかはどうでも良い話です。
政府と日銀は統合政府なのですから、親子でお金の投げ合いをしているようなものです。
「統合政府」という言葉は高橋氏や上念氏のお得意のはずですが、どうでもいいことを意味ありげに言う人を持ち上げるのは何故なのでしょうか。
また、永久債にしてしまうと日銀はそれを処分できません。
www.ifinance.ne.jp
本来、売ることはできるのでしょうが、リンク先の論者は売らないのを前提にしているので、売ることも償還を要求することもできない資産を日銀は抱え込むことになります。
インフレの高進が予見されたときに、政治家や官僚が正しく償還しないと惨事が発生しますが、政治家や官僚は金融政策の素人です。
素人に金融政策をやらせることになる点ではヘリマネと同じで、非常に危険です。

久債で政府債務を帳消し?

この論者は「永久債を償還することで債務を消すことができる」と述べていますが、これは先ほど書いた通り、貨幣の回収をしていることになります。消したのではなく交換しただけです。
この点では、高橋氏や上念氏が主張している、「日銀に債務を永久乗り換えさせる」という主張とは矛盾しているので、二人がどのようにこの論者の主張を理解しているのか不可解であったりします。
次にこの論者は、

インフレを考慮し、日銀が償却できる国債の限度を定期的に設定する。例えば、一定期間中にGDP比20%まで償却して良いと決めると、純債務残高は現在の140%から120%まで減らすことができる。

と述べています。
おそらくこれは、政府債務をGDPの20%分(今なら約100兆円分)を日銀が買い入れて、それを償却する、ということなのだろうと思いますが、無意味です。
民間にある国債(政府債務)を日銀が100兆円分買うと貨幣が100兆円民間に出てきますが、政府が日銀に償還するには、100兆円を民間から調達しなければいけません。
100兆円調達するには、増税国債発行が必要になります。
100兆の増税は不可能なので、国債発行することになります。
政府債務残高は元に戻ります。
この論者、高橋氏、上念氏はおそらく、シニョレッジについての理解が誤っています。
或いは、意図的に誤ったことを政治家に吹き込んで、自分たちに都合のよい政策をとらせようとしています。
常識的に考えて、この論者や高橋氏・上念氏が言うように簡単に政府債務を消すことができるなら、どの国でもそうするでしょう。
さまざまな国が、緊縮財政を行って財政再建していることを思えば、リフレ系が主張するようなうまい手が存在するわけがないとわかります。
各国政府や中央銀行には、日本とは比べ物にならないほどの数の専門家が入っていますが、その全員に思いつかないことが、どうして高橋氏や上念氏に思いつくのでしょう。
世界で唯一無二の優れたアイデアをこの二人が本当に考えついたのであれば、今すぐFEDやECBに教えて差し上げたらよいと思いますし、即座にノーベル賞が与えられるべきでしょう。
経済理論が分からなくても、現実に起こっていることを観察すれば、高橋氏や上念氏の誤った主張に惑わされることはなくなります。

リフレ系のFTPLは掛け声倒れに終わる。

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リフレ系商売の新たな看板になりそうなFTPLですが、政策にきちんと取り入れるのはハードルが高すぎて無理でしょう。

この理論を政策に反映させようとすると、第一に財政再建を放棄しなければなりません。
少なくともインタゲを達成するまでは増税も歳出削減も一切やらない、と宣言しなければいけません。
消費税を上げないというだけではダメで、人々の可処分所得(使えるカネ)を減らすような政策を全部やめる、と宣言して人々に信じさせなければならないのですが、もうこの時点で実施は不可能でしょう。
こんなことを政治家・マスコミ・財務省に納得させるのはまず無理であり、海外のメディアや国際機関、外国政府からも懸念が表明されることになるでしょう。

FTPLは数ある経済理論の一つにすぎず、通説でも何でもないので、その他の立場の学者・ジャーナリスト・政治家・官民エコノミストは遠慮なく否定・批判してくるだろうということです。

そうなれば日本国民は不安になって消費を控えてしまいますから、元の木阿弥です。

リフレ系はおそらく、「そんなやり方は極端だ。どんな経済理論でも完全な形で実施するわけではない」と言い訳するでしょうが、人々が政府を信じて消費を増やさないとインフレにならないという理論なので、この部分をないがしろにすることはできません。
適度に財政再建しながら、同時に財政出動して消費を増やしていただきます、というのはFTPLでなくて適当にアレンジしたケインズ政策でしかなく、それでは今までと何の変化もありません。
今まで効果がなかったことを継続して行いますというのでは、FTPLを持ち出した意味がありません

フレ系の誤解

来年の新発国債34兆3698億円だそうですが、FTPLによると政府債務の償還のために歳出を削減してはならず、増税してはならず、公債を発行してもいけないということになるので、新発国債のうちどのくらいが債務償還に充てられるのかが問題です。

リフレ系が大きく誤解しているのがこの辺でしょう。
リフレ系は公債発行大好き、償還大嫌いという奇怪な思想に取りつかれた人が多く、FTPLはその奇怪な思想を正当化してくれる理論だと考えているはずです。

しかし実際は、歳出削減せず、増税せず、公債の追加発行をせず、政府債務の償還をするとインフレになるというのがFTPLです。

リフレ系が言っているような、政府債務を無限に借り換えろとかいうバカ話ではありません。

FTPLに従うなら、償還費用を減らすことに反対しなければいけません。
償還を先延ばしすると、インフレが遠のいてしまいます。
リフレ系は償還で予算を圧迫することを非常に嫌うので、リフレ系+FTPLを実行すると予算が膨れ上がります。
膨れ上がってもいいじゃないかとリフレ系は思うでしょうし、私も債務の償還に励むのが良いと思うので膨れ上がって良いと思いますが、予算が膨れ上がると国民が不安がって消費を減らすかもしれないので、そうならないように手立てを尽くす必要がありますが、それが何なのか分かりません。
FTPL支持者に教えてほしいところです。

国債償還年限を長期化してもインフレは遠のきます。
FTPLは債務の償還時点でインフレになると述べているのですから、むしろ償還を短期化しなければいけません。
現在日本は、短い期間の債務を減らして、長い期間の債務を増やしていますが、これはインフレを遠ざけることになるので、FTPLを利用して近い将来にインフレを起こしたいなら真逆の政策提言が必要になります。
この部分も従来リフレ系が主張してきた政策とやはり矛盾します。
債務の長期化を行っているのはリフレ系が「長期国債を発行してインフラ投資しろ」とか「金融機関の経営を助けるために長期金利を上げろ」と主張してきたのが採用された結果ですが、FTPLとは全然逆です。
この辺からも、リフレ系がFTPLを理解しておらず、単に思いつきで口走ったことがうかがわれます。

以上のように、FTPLを政策として採用するには、常識的な政策、新たに採用された政策、を全面的に変更する必要があります。

現実的に言ってそれはまったく無理です。

スローガンのようにFTPLをこれからリフレ系はもてはやすでしょうが、実際に行われるのは似て非なる従来型の財政政策にすぎず、「どこがFTPLなんだ」と批判される隙がますます拡大していく結果となるでしょう。

もちろん従来型の財政政策は大して効かないので、財政を浪費しながらトランプ相場だのみとなることでしょう。

つまり、バカと言われようがアホと言われようが、FTPLを理解する必要など全くないということであります。

理解しても社会的意味など無いので、理解しないでリフレ系を批判するのが最も効率的かつ合理的な方法だということになります。

上念司氏にFTPLの解説は無理である。

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チャンネルくららの動画を見ると、上念司氏は「八重洲イブニングラボ」でFTPLの解説を行うのだそうです。
安達誠司氏によるFTPLの解説を元に、四則演算だけを用いて説明するのだとか。

まず問題なのは、安達誠司氏本人は「シムズ氏の論文を読んでもFTPLがよくわからなかった」と発言しているので、それを元にしても説明することはできないだろうということ。

次に、四則演算だけだから易しいとは言えないこと。
概念を理解したり、その概念の正当性やら妥当性を判定するのはやっぱり難しいでしょう。
四則演算だけで書かれた1000ページ以上ある初歩的なミクロ経済の教科書がありますが、あれを読み通している人はあまりいないんじゃないでしょうか。
大学で教科書として用いているなら読み通すと思いますが、自発的に読んでいる人はあまりいないと思います。
四則演算だけで説明されていても、メカニズムの理解は苦労するということだと思います。

四則演算だけの教科書だけでなく、初級のミクロ教科書がいくつも出ていますが、自発的に読む人はほとんどいないと思いますね。
一般の人だけでなく、ジャーナリスト・評論家・政治家・コメンテーターなど、政策を決めたり政策に影響を与えたりする立場の人で、ミクロ経済学の素養のある人をほとんど見かけません。

恐ろしいことに、大学で政策や経済学を教えているという人たちでもそんな感じ。
なかには、経済学者を自称していても初級ミクロ経済学の素養がない人がいますし、そういう人が政治家と個人的なツテを持っていて、政策に影響を与えています。

そんな状態ですから、現在の日本が世界最大の金融緩和と先進国中最大の財政出動をしていながら経済停滞をしているのも当然のことであります。

FTPLの説明に無謀にもチャレンジする上念氏

上念氏がFTPLをちゃんと理解していないのはほぼ確実ですし、それどころか本職の経済学者である浜田氏も怪しいものです。

物事は軽薄に賛成反対言う前に自分で調べるのが大切だと思うのですが、FTPLについてちょっと調べてみれば、専門家の間でも評価がまったく分かれていて、複雑な数学部分以前に、基礎になっている概念に疑問を呈されていたりするものです。

この理論は実証されておらず、正しいのかどうか良くわからないというべきものであり、本来なら軽々しく否定も肯定もできません。

政策に取り入れて悪いとは言えませんが、それは大冒険ですね。
インフレ目標など比較にならないほどの大冒険です。
何しろ、本格的に採用されたことがなく、どんな結果が出るのか全く分からないですし、何年か十数年かやってみて、誤りであったことが判明すると政府債務の問題が取り返しのつかない状態になります。
そんなものに国民全員を巻き込んで良いものでしょうか?

昨日の動画を見る限り、上念氏はすでにFTPLについての我田引水を行っています。
八重洲イブニングラボで行う「解説」はおそらく、「FTPLはリフレ政策と同じようなものであり、我々の従来の主張と整合する」といったものになるでしょう。

そんな「解説」をしたらウソなのですが、そんなことで有料講座を行って良いものなんでしょうか。

上念氏が公開された場所では「解説」を行わず、ファンだけがあつまる閉鎖空間で「解説」をしようとしているのは、FTPLについての理解に自信がなく、しかも正確な解説をするつもりが最初から無いからだろうと思います。

八重洲イブニングラボでの「解説」は支持者の結束を固める集会に過ぎないでしょう。

念氏のFTPL説明のおかしさ

上念氏は、「FTPLは金融緩和をビルトインした理論だ」と昨日の説明で述べていましたが、これは誤りです。

FTPLは通貨供給量と物価の関係を否定しており、だからこそ「物価水準の財政理論」なのです。
この理論では、国債の日銀引き受けや国債の買いオペは物価変動に何も影響を与えないと主張しています

また、「政府債務の残高に対して、財政が破たんしないように物価が変動する」*1ともFTPLでは主張されているのですから、デフレの原因は日銀ではなく政府の財政運営にあった、ということになります。

まさにリフレ政策の全否定であります。

だからこそ浜田氏がFTPLを支持するようになったことは変節なのであり、変節という以外に表現のしようがないのです。
この件についてはマスコミの批判が正しいと言えます。

通貨供給量が物価に影響するならそれは貨幣数量説になってしまいます。
浜田氏は貨幣数量説に根差すリフレ政策は誤りであったと述べるに至っているのですから、上念氏の説明は最初の一言めから間違っていることになります。

さらにFTPLでは、「追加で政府債務を発行する時点で物価は下落し、償還の時点で物価は上昇する」としていますから、「債務を償還するな」と主張してきた高橋洋一氏や上念氏の従来の主張と全く矛盾します

田氏がFTPLを持ち出す無意味さ

浜田宏一氏がFTPLを支持するに至った理由は、「(長期)金利が0に近づいて量的緩和の効果が薄れたから」というものでした。
この言説自体が曖昧なもので、1を下回ったらダメなのか、0.5を下回ったらダメなのか、或いは0ギリギリになったらダメなのか、はっきりしません。この辺の説明をちゃんとできるのでしょうかね。

「効果が薄まった」という点も曖昧で、学者の言説とは思えません。
何が薄れたのでしょうか?インフレ率でしょうか?
浜田氏は、「インフレ率の上昇は本質的でない。雇用と生産の増加が大切」と述べており、現状の日本は少しずつ生産と雇用が増えているのですから、主張がやはり最初から矛盾しています。
思考が混乱しているのではありませんか?

現行の、マネタリーベースを中間目標としたインフレ目標付き・国債無限買い入れ、の他にFTPLに根差した政策を行え、と浜田氏は述べているわけですが、マネタリーベースは広義の政府債務なのですから、公債残高を増やす必要はないはずなのですが。

上念氏は確か、「浜田先生を批判している人間は、この議論が統合政府を前提としていることを理解していない」という主旨のことを述べていましたが、統合政府を前提に考えると、公債残高を増やす必要はなく、マネタリーベースを増やせばよいということになり、FTPLに根差した政策を追加で行う理由が無いということが分かります。

以上、上念司氏がFTPLを理解しておらず、その「解説」など無理だ、ということを書いてみました。

上念氏が今後、どれほどムチャクチャなことを「解説」として世間にばら撒くのか、注視していきたいと思います。

*1:ついでに言うと、高橋洋一氏と上念司氏は、「日本は財政破綻しない」と言うのですから、FTPLによってしまうと物価が上昇しません。