最低賃金上げ

安倍政権最低賃金を引き上げることを目玉政策にし始めた理由はいろいろあると思うのですが、いちばん根っこの理由として、

  • 原資がいらない

というものがあるだろうと思います。
そこに、

  • 労組が喜ぶ
  • 国民が素朴に喜ぶので、支持率上昇、選挙も期待できる

ということが加わり、さらに

  • 周囲にいるブレーンがケインジアンなので、ブレーンの思想にかなうので勧められる

といったところがあるのではないでしょうか。
最低賃金引き上げを人知れずやるのと大々的にやるのとでは意味が違います。
今後は政権が積極的に公約を守るために推進しなければ、マスコミからの批判、支持率低下に見舞われることになります。
厄介なのは、最低賃金を上げることが経済学的には「有害である」という洞察の対象になっていることで、安倍政権は、実行すれば有害、しなければ批判の対象、という悪手をうったことになります。


最低賃金を引き上げると、影響を受ける産業があるわけですが、おそらく政治力が低いのか、その産業自体がフランチャイズが盛んで、コスト増の悪影響を末端に押し付けられる、ということがあるのかもしれません。
いまのところ、目立った反対意見が出ていないので、このまま進んでいくのだろうと思います。


最低賃金引き上げの悪影響は、①企業の余剰が均衡よりも大きく減る ②失業が発生する可能性がある ③貧乏な労働者から、小遣い稼ぎのバイト学生やパート主婦に仕事が奪われる危険性がある  というものがあります。
②、③の場合、最低賃金に頼って生活しているワーキングプアは非常に困るわけですが、彼らは数が少ないので、政治家は失敗を無視できますし、賛成した経済学者も非難を浴びることはありません。


日本で最低賃金を受け取る労働者は400万人だそうですが、このうち貧困層は3割~1割くらいしかいないと推測されます。
アメリカでは3分の1、日本では10~15%しかいない、という調査結果があります。
となると、最低賃金で暮らす貧困層は多くても100万人、少なければ40万人しかいません。
最低賃金を10%引き上げると数%の失業が発生するといわれるので、安倍政権による最低賃金の引き上げによる失業は多くても10%くらいだろうと予想されます。
となると、仕事を失い、再就職に困ることになる人は4~10万人程度しかいません。
就業者6400万人、有権者1億人の日本では、ごくごく少数派です。
彼らは誰にも気づかれずに困窮し、声も上げられないでしょう。
それどころか、最低賃金の引き上げは良いことであると彼ら自身が考えているだろうことが推測され、自分たちに何がおこっているかも分からないでしょう。
その一方で安倍政権生活保護を引き締めていますから、彼らの行き場はますますなくなります。
(おそらく、最低賃金を上げているのだから生活保護は締めるのが道理だと考えているのでしょう。)
行き場をなくした少数者たちはどうするんでしょうね、ホームレスか自殺でしょうか。


経済学の存在意義は、このような俗っぽい勘違いによる失政を防ぐことにあると思うのですが、現実の経済学者は体面維持としがらみ重視で何も言わないか、積極的に賛成するかしている始末です。
経済学の教科書に書かれ、大学でも教えられている内容であるにも関わらず、こんな調子なのです。
経済学の意義が疑われる事案がまた一つ付け加わったということになります。