麻生政権下でマンデルフレミング効果?

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この間2016年10~12月期GDPの一時速報がでました。
併せて、2016年の暦年GDPも一報がでましたね。
そこに表れた傾向は、2015年末からリフレ参与・リフレ議員・巷のリフレ系が煽っていた政策がすべて外れたことを示すものでしたが、リフレ系の人々は自分たちに都合のよい思い付きを述べ続けています。
反省の色なし。
ぜんぜん効果がなかったのにも関わらず、リフレ系が正当化に躍起になっているのは、「金利ターゲットと財政政策の連動」。
金利ターゲットは導入されて半年経ちますが、リフレ系が想定する形での作動を一回もしていません
今まで二回反応したのは、いずれもアメリカの経済動向に対してであって、日本の政策に対してではありません。
リフレ系は学者も含めて、「金利ターゲットがうまく作動した」と宣伝していますが、ウソをついています。
金利ターゲットは、「財政政策で名目金利が上がったら、自動的に金融緩和が行われて金利の上昇を防ぐ」、という意図のもとに導入されたのですが、財政政策を行っても名目金利が一向に上昇しないので作動できないのです
長期金利が上がっていますが、これは「上げよう」という意図をもって長期国債の発行を増やしたり、長期国債の買い入れを減らしたりしたからであって、財政出動のせいではありません。

生政権下での円高がマンデルフレミング効果?

機能しない金利ターゲットを正当化する意図で、「麻生政権は財政出動ばかり行って金融緩和をしなかったためにマンデルフレミング効果で円高になった」という説を流しているリフレ系の人がいますが、マンデルフレミング効果は、実質長期金利の影響で起こるので、リフレ系が問題にしているような名目金利の話とは違います。
麻生政権は2008~2009年ごろありましたが、そのころの長期金利とインフレ率の推移。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/meeting_of_jgbsp/proceedings/outline/131122pdset_2.pdf
ecodb.net
当時の長期金利は2008年6月に一時的に上昇しましたが、基本的にはそれ以前より下がる傾向だったことがわかります。
財政出動で名目長期金利が上昇した」とは言えません。
この点で、リフレ系が想定しているような「金利ターゲットと財政出動の連動」は事実に照らしても効果が疑わしいとわかります。
インフレ率は2008年から2009年にかけて急激に低下しているので、これは実質金利を上げる要因でした。
しかしこれは景気の急落によって引き起こされたのであって、財政出動とは関係ありません。
要するに、「麻生政権のころに財政政策によりマンデルフレミング効果が現れた」という説は誤りだということです。
当時は確かに円高であり、それが日本経済に悪影響を及ぼしていましたが、円高の原因はマンデルフレミング以外にも存在するのですから、それらを度外視する理由がありません。

川日銀と金利ターゲットの類似性

この時期に白川日銀は超過準備に付利を行い、短期金利が0.1%程度にとどまるように「下限」を作りました。
名目金利を下げて、実質金利も下げるという方法が制限されたわけです。
これは非合理的な政策であって、FTPLのコクラン氏も、「超過準備への付利はインフレを抑制する」と述べています。
インフレを抑制するということは、実質金利が下がらないということです。
このような事情があるからこそ黒田日銀は超過準備への付利をマイナスに転換したのですが、金融業界とリフレ系が強く反対しました。
半年後に金利ターゲットとマイナス金利の弱体化が発表されましたが、それはマイナス金利の効果が指標で確認される前に決まっていました
黒田日銀自身がわずか半年で政策を180度変えるわけがないので、これは安倍政権が介入したものと思われます。
金利ターゲットは金利の上限と下限を決める政策ですから、手法は違いますが意図は白川日銀と半分は同じです。
リフレ系と安倍政権は金融政策に関して金融業界の利益を国民生活よりも優先すると決めたわけで、これは白川氏が正しかったと認めたのと同じです。
その証拠に、金利ターゲット以降に銀行の純利益は増えた一方で、住宅投資は激減し、2016年のGDP増加率は、2015年の増加率を下回りました。
金融政策も財政政策も、金融業界のために割り当てたのですから、当然の帰結といえましょう。

シムズ氏の貴重な教え(リフレ系は全然理解してない教え)

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FTPLについてリフレ系の人たちがほとんど言及しなくなりましたが、リフレ系の良いように利用できなかったので黙殺し始めたのだろうと思います。
いつものことです。
リフレ系は、彼らのポジション的利益のために無分別な経済政策を正当化しようとシムズ氏の権威を利用しようとしましたが、シムズ氏の残した教えは、きちんと読めば逆の示唆を含んでいます。
jp.reuters.com

  1. 政府債務はインフレで相殺される。インフレとはある種の税である
  2. 日銀が大きなバランスシートを抱え続けるのはよくない

インフレがある種の税だ、というのは標準的な経済学でも教えているので、特に珍しいものではないのですが、リフレ系はふだん、「政府債務は何の負担もなく消滅させることができる」と人々にウソをついているので、その辺にクギ刺す指摘なのです。
インフレで政府債務を相殺する、というのは、「インフレで負担する」という意味です。
インフレで物価が上昇するということは、商品を買う力が減る、ということです。
商品を買う力を2~3パーセント手放して、それによって政府債務を軽くするわけです。
具体的には、2~3%のインフレになると名目GDP(価格×生産量)が大きくなり、「名目GDP×税率=税額」の、税額が大きくなるので政府債務の返済がしやすくなるということであります。
2~3%のインフレの状態は、好景気であると期待できるので*1、インフレ率以上に私たちの所得が伸びるだろうという期待も持てるので、差し引きすれば、商品を買う力は増えるだろうという楽観的予測です。
例を挙げれば、好景気で給料が毎年4%伸び、そのうち2~3%はインフレで吸収され、結果的に商品を買う力は毎年1%増えるでしょう、という筋書き。
私は本来のリフレーション政策を支持しているのですが、敢えて書いておくと、人によってはマイルドインフレの世の中で損をすることはあります。
給料がどれくらい上がるかは、その人がどんな会社に勤めているかに左右されるので、もしその人の給料が毎年1%しか上がらないのであれば、その人は毎年、商品を買う力が下がっていきます。それによって政府債務を負担しているということになります。
いい加減なリフレ系の言うような、誰もが何の負担もせずに政府債務を消す方法などありはしないのです。
そんな方法があれば、世界中の国が無限に財政支出を増やすことでしょう。
そうなっていないことが、リフレ系のウソを端的に証明しています。
上記の「日銀が大きなバランスシートを抱え続けるのはよくない」という部分も、リフレ系の従来の主張を否定するものです。
リフレ系は、政府債務を日銀に買わせて、永久に乗換させれば債務は消えたも同じ、というウソを繰り返してきましたが、シムズ氏に言わせれば、それはよくないということなのです。
日銀の損失を政府が埋めることになると、独立性を否定する議論が出かねないという意味に読めます。
リフレ系は「日銀の独立性なんぞ剥奪してしまえ」と軽薄に叫んでいますから、何とも思わないのかもしれませんが、政治家や官僚が金融政策まで取り仕切るのは非常に危ないことだろうと思います。

*1:この程度のインフレ率ならスタグフレーションにはならないだろうと期待されるという意味ですが。絶対そうなるかどうかは分かりません。経験則。

リフレ系のFTPL理解は「深い」らしい

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そのように本人が(ぴかぴかな様子で)ラジオで述べていたのですが、その割には説明がしどろもどろだったような気がします。
リフレ系はさかんに、「FTPLは金融政策を肯定している」とか「FTPLには金融政策が組み込まれている」などといいますが、ここには重大な欺瞞があります。
リフレ系が暗に印象づけようとしているのは、「FTPLはリフレ系と同じ金融政策観を持っている」ということですが、それは明らかに違います。
FTPL論者の金融政策観はリフレ系とは異なっていて、リフレ的な政策への評価は非常に低いです。
講演に招かれた席で正面切ってリフレ政策を否定するわけにはいかないので、礼儀上遠まわしに意見を言っていただけの話であります。
シムズ氏が量的緩和に否定的であるということは割と知られるようになっているので繰り返しませんが、その他の面を見ていきましょう。

ンタゲ達成後には消費増税をせよ?

日本経済研究センター JCER
これはこの間の講演録なのですが、シムズ氏の発言は整合的な理解が難しいですね。
リフレ系に配慮している結果、つじつまが合わなくなっているように思えます。
もともとFTPLでインフレ率を上げるには、恒久的に財政赤字を出す必要があったはずです。
上記ページにも、

 一般に財政赤字が増えると、人々は政府が赤字を補うために将来増税すると予想する。こうした考えに対し、「将来にわたり増税をしない」と政府が宣言し、消費に安心感を与え、インフレを引き起こすのがFTPLの基本的な考え方だ。

と書いてあります。
しかし、インフレ目標達成時には消費増税を行うとなると、増税したときに人々は例のごとく消費を減らし、インフレ率が下がってしまうでしょう。
その時はどうするのでしょうか?
またも財政赤字の拡大でインフレ目標達成を目指すということになります。
消費増税したのに財政赤字が拡大したのでは、財政再建の目的が達成できませんから、増税に意味がないことになります
FTPLでインフレ目標達成を目指すのであれば、消費増税は全面放棄するべきではないでしょうか?
そう考えないとつじつまが合いません。
リフレ派の浜田宏一氏までもがインフレ目標達成後の消費増税に賛成しているのは理解しかねます。

FTPLは現実世界で機能するか?

この講演会に参加した塩路氏の資料が、上記ページの一番下にありますが、「まんじゅう」の価格を使ったわかりやすい例えが使われています。
塩路氏はシムズ氏に師事したとのことですが、この資料の中で、「日本はすでにFTPLが想定する状況になっているがインフレになっていない」と指摘しています。
日本はすでに国債の発行残高が巨大なものになっているので、FTPL的なインフレが起こる素地が十分にあるはずなのですが、現実にはそうなっていません。
この辺の解説で分かりやすいのは、土居丈朗教授のもの。
土居教授は消費増税派でありますが、十数年前には既にFTPLの解説を書いておられ、にわか仕込みのリフレ系(ぴかぴか)とは大違いであります。
toyokeizai.net
リンクしたページで平易に解説されているので、そこだけでも読んでほしいと思いますが、FTPLの理論では、今年の財政収支を悪化させるか、今年返済する国債を増やすかすればインフレが起こることになります。
日本ではそのような状況がさんざん繰り返されましたが、デフレが続いたことは周知のとおり。
また、このページからわかるのは、「FTPLには金融政策が組み込まれている」と述べるリフレ系の主張が誤りであるということ
FTPLのインフレでは通貨供給は無関係です。

FTPLの他の論者

浜田宏一氏変節のきっかけになったジャクソンホールの講演録も読んだのですが、シムズ氏のロジックはけっこうわかりにくいです。
FTPL論者の中では、コクラン氏の論説の方がわかりやすいので、コクラン氏のブログなどを参照するのが良いと思います。
コクラン氏の主張を私は面白いと思いますし、参考になるとも思いますが、リフレ派の主張とはぜんぜん違います
リフレ系がまいどお馴染み権威依存でシムズ氏にすり寄って、「俺たちの主張はノーベル賞受賞者と同じだ!」と鼻息荒く「虎の威を借る狐」を地でいっていますが、それが偽りであることを確認しましょう。
John Coochrane on Quantative Easing
このページの後半、「QE is not harmless however. 」以下で、コクラン氏は「量的緩和は有害だ」と述べています。
コクラン氏はまず、「財政破綻を避けるために短期でなく長期の国債を発行せよ」と述べています。リフレ系はよく、「日本は財政破綻しない」といいますけれども、FTPLの論者はアメリカですら財政破綻の危険があると見ているわけです。
日本も2016年から長期国債の発行を増やしましたが、これは財務省も安倍政権も日本が財政破綻するかもしれないという危惧を抱いているということになるでしょう。
次に、「インフレ予想の高まりはスタグフレーションを招くだけだ」と述べています。インフレが来ると予想すると価格や賃金がすぐに上昇するので、生産は伸びないとしています。
それから、「急なインフレやデフレより、ゼロインフレか予想されているゆっくりとしたデフレの方が良い」としています。
これは今の日本にまさしく当てはまる状況であり、FTPL的に言えば、日本は今の状況を無理して脱出する必要がないということになります。
コクラン氏がここで書いている3点は、すべてリフレ派の主張を否定しています
リフレ系はFTPL論者の主張を理解するどころか、読みもしないで「俺たちと同じだ」と喧伝しているということがわかりました。