政府債務の償還に力を入れよ

財政の拡大に伴ってGDPの増加率が低下する、という現象がよく見られます。
政府支出が拡大してその分のGDPが増えるのは当たり前ですが、経済全体のGDPは下がるということです。
これは、財政の拡大が金利に上昇圧力をかけることによって民間から資金を取り上げてしまう効果があるためですし、特に企業はマイナスの自然利子率に直面していると思われ、そんな中で採算のとれる投資をするためには、実質金利がそれよりも更にマイナスでなければいけません。
そのような状況で安直な財政拡大が行われると、必要な分の実質金利の低下が起こらないことによって設備投資が減退するのです。
政策提言をする立場にある人ですら、「現在、実質金利はマイナスなので、十分下がっている」と言う人がいますが、企業が採算をとるのに十分なくらい下がらなければ効果が薄いということをわかっていません。
マイナス金利は絶対値で考えるものではなく、相対値で考えなければならないものです。
今の情勢でやらなければならないのはマイナス金利の拡大です。
緩和速度の増加にも効果があると思いますし、外債の購入もできるようにしてほしいと思いますが、実質金利を下げる確度の高い方法はマイナス金利の拡大でしょう。
マイルドインフレは実現するとマイナス金利より便利だと思いますが、原油価格の低下は金融政策ではコントロールできないので、今はマイナス金利の活用の方が適切だと思います。
また、マイナス金利はあまり為替レートに影響しないということも観察されています。
今の為替レートは投機筋によってかく乱されているという見方もあり、通常ならマイナス金利は為替レートに影響するのかもしれませんが、現状そうなっていないのは好都合です。
緩和速度を増加させたり、外債を購入したりするとすぐに円安になると思われ、これは我々にとっては良いことですが、アメリカにとっては嫌なことなので(実際はアメリカにとっても得になると思いますが)、遠まわしに反対されるでしょう。
その点、マイナス金利は為替レートに影響を与えずに民間住宅や輸送用機械への支出を増加させました。
一層マイナス幅を拡大することで、為替レートに影響を与えないままで企業の設備投資を促進することも可能だと思います。
一方、財政はこれから拡大することが決定しており、一旦決めると一年も二年も方針が固定的になってしまうという、財政政策の悪いところがよく現れています。このような硬直性があるゆえに、「財政政策は安定化に向いていない」と言われるのです。
安倍政権はこれから一年くらい財政拡大方針で進むわけですが、本来なら財政支出は縮小し、債務の償還に励むべきでした。
債務の償還は、民間に資金を戻すということですから、金利に低下圧力をかけ、これは金融政策で実質金利の低下を目論んでいることと調和します。
金融緩和をして民間の経済活動を活発化させている状況では、政府が借金返済に励んだところで、デットデフレーションのようなことは発生しません。
大恐慌でもリーマンでも、即座に大規模金融緩和を行っていたら、デットデフレーションの影響は軽微で済んだでしょう。
金融政策には経済活動を活発化させる仕組みがあり、そこが財政政策とは違うところです。
財政政策は資金を移動させるだけなので、それ自体に経済活動を活発化させるメカニズムがなく、むりやり需要をふかすためには延々と財政支出をしなければならないという、不便なものです。
財政政策の真価はむしろミクロ政策で発揮されるはずですが、安倍政権は構造改革に財政政策を活用せずに、最低賃金上げ+中小企業への財政支援という非効率なことを行っています。
資金の配置や移動によって、効率的な経済活動を動機づけることが出来るのにも関わらず、そのようなアイデアさえ出てこないというのは、周りにおいているアドバイザーの人選を間違っているからでしょう。
浜田参与だけ残して、あとは総入れ替えしたらいいと思いますし、在野にいる経済学者風の詐話的アドバイザーと個人的に交流して誤った知識を仕入れるのをやめるべきだと思います。
親しい人間の言うことが正しいとは限りませんからね。