上念司氏にFTPLの解説は無理である。

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チャンネルくららの動画を見ると、上念司氏は「八重洲イブニングラボ」でFTPLの解説を行うのだそうです。
安達誠司氏によるFTPLの解説を元に、四則演算だけを用いて説明するのだとか。

まず問題なのは、安達誠司氏本人は「シムズ氏の論文を読んでもFTPLがよくわからなかった」と発言しているので、それを元にしても説明することはできないだろうということ。

次に、四則演算だけだから易しいとは言えないこと。
概念を理解したり、その概念の正当性やら妥当性を判定するのはやっぱり難しいでしょう。
四則演算だけで書かれた1000ページ以上ある初歩的なミクロ経済の教科書がありますが、あれを読み通している人はあまりいないんじゃないでしょうか。
大学で教科書として用いているなら読み通すと思いますが、自発的に読んでいる人はあまりいないと思います。
四則演算だけで説明されていても、メカニズムの理解は苦労するということだと思います。

四則演算だけの教科書だけでなく、初級のミクロ教科書がいくつも出ていますが、自発的に読む人はほとんどいないと思いますね。
一般の人だけでなく、ジャーナリスト・評論家・政治家・コメンテーターなど、政策を決めたり政策に影響を与えたりする立場の人で、ミクロ経済学の素養のある人をほとんど見かけません。

恐ろしいことに、大学で政策や経済学を教えているという人たちでもそんな感じ。
なかには、経済学者を自称していても初級ミクロ経済学の素養がない人がいますし、そういう人が政治家と個人的なツテを持っていて、政策に影響を与えています。

そんな状態ですから、現在の日本が世界最大の金融緩和と先進国中最大の財政出動をしていながら経済停滞をしているのも当然のことであります。

FTPLの説明に無謀にもチャレンジする上念氏

上念氏がFTPLをちゃんと理解していないのはほぼ確実ですし、それどころか本職の経済学者である浜田氏も怪しいものです。

物事は軽薄に賛成反対言う前に自分で調べるのが大切だと思うのですが、FTPLについてちょっと調べてみれば、専門家の間でも評価がまったく分かれていて、複雑な数学部分以前に、基礎になっている概念に疑問を呈されていたりするものです。

この理論は実証されておらず、正しいのかどうか良くわからないというべきものであり、本来なら軽々しく否定も肯定もできません。

政策に取り入れて悪いとは言えませんが、それは大冒険ですね。
インフレ目標など比較にならないほどの大冒険です。
何しろ、本格的に採用されたことがなく、どんな結果が出るのか全く分からないですし、何年か十数年かやってみて、誤りであったことが判明すると政府債務の問題が取り返しのつかない状態になります。
そんなものに国民全員を巻き込んで良いものでしょうか?

昨日の動画を見る限り、上念氏はすでにFTPLについての我田引水を行っています。
八重洲イブニングラボで行う「解説」はおそらく、「FTPLはリフレ政策と同じようなものであり、我々の従来の主張と整合する」といったものになるでしょう。

そんな「解説」をしたらウソなのですが、そんなことで有料講座を行って良いものなんでしょうか。

上念氏が公開された場所では「解説」を行わず、ファンだけがあつまる閉鎖空間で「解説」をしようとしているのは、FTPLについての理解に自信がなく、しかも正確な解説をするつもりが最初から無いからだろうと思います。

八重洲イブニングラボでの「解説」は支持者の結束を固める集会に過ぎないでしょう。

念氏のFTPL説明のおかしさ

上念氏は、「FTPLは金融緩和をビルトインした理論だ」と昨日の説明で述べていましたが、これは誤りです。

FTPLは通貨供給量と物価の関係を否定しており、だからこそ「物価水準の財政理論」なのです。
この理論では、国債の日銀引き受けや国債の買いオペは物価変動に何も影響を与えないと主張しています

また、「政府債務の残高に対して、財政が破たんしないように物価が変動する」*1ともFTPLでは主張されているのですから、デフレの原因は日銀ではなく政府の財政運営にあった、ということになります。

まさにリフレ政策の全否定であります。

だからこそ浜田氏がFTPLを支持するようになったことは変節なのであり、変節という以外に表現のしようがないのです。
この件についてはマスコミの批判が正しいと言えます。

通貨供給量が物価に影響するならそれは貨幣数量説になってしまいます。
浜田氏は貨幣数量説に根差すリフレ政策は誤りであったと述べるに至っているのですから、上念氏の説明は最初の一言めから間違っていることになります。

さらにFTPLでは、「追加で政府債務を発行する時点で物価は下落し、償還の時点で物価は上昇する」としていますから、「債務を償還するな」と主張してきた高橋洋一氏や上念氏の従来の主張と全く矛盾します

田氏がFTPLを持ち出す無意味さ

浜田宏一氏がFTPLを支持するに至った理由は、「(長期)金利が0に近づいて量的緩和の効果が薄れたから」というものでした。
この言説自体が曖昧なもので、1を下回ったらダメなのか、0.5を下回ったらダメなのか、或いは0ギリギリになったらダメなのか、はっきりしません。この辺の説明をちゃんとできるのでしょうかね。

「効果が薄まった」という点も曖昧で、学者の言説とは思えません。
何が薄れたのでしょうか?インフレ率でしょうか?
浜田氏は、「インフレ率の上昇は本質的でない。雇用と生産の増加が大切」と述べており、現状の日本は少しずつ生産と雇用が増えているのですから、主張がやはり最初から矛盾しています。
思考が混乱しているのではありませんか?

現行の、マネタリーベースを中間目標としたインフレ目標付き・国債無限買い入れ、の他にFTPLに根差した政策を行え、と浜田氏は述べているわけですが、マネタリーベースは広義の政府債務なのですから、公債残高を増やす必要はないはずなのですが。

上念氏は確か、「浜田先生を批判している人間は、この議論が統合政府を前提としていることを理解していない」という主旨のことを述べていましたが、統合政府を前提に考えると、公債残高を増やす必要はなく、マネタリーベースを増やせばよいということになり、FTPLに根差した政策を追加で行う理由が無いということが分かります。

以上、上念司氏がFTPLを理解しておらず、その「解説」など無理だ、ということを書いてみました。

上念氏が今後、どれほどムチャクチャなことを「解説」として世間にばら撒くのか、注視していきたいと思います。

*1:ついでに言うと、高橋洋一氏と上念司氏は、「日本は財政破綻しない」と言うのですから、FTPLによってしまうと物価が上昇しません。

上念司氏の浜田宏一氏擁護は誤り

「誤り」と書いたのは、私は上念氏ほど図々しくないので、「ウソ」とまでは軽々しく言わないだけ。
ちなみに、本日私は上念氏のツイートを引用したので、批判されているのはわかっていると思います。
ま、別に反応は要りません。
私は時間泥棒ではないので。
上念氏の動画ですが、浜田擁護は17分から。

上念氏は批判者に対して、「FTPLを理解していない」と言っていますが、上念氏も理解していないでしょう。
理解していれば、説明できるはずです。
シムズ氏の論文はネットで見つかります。
https://www.kansascityfed.org/~/media/files/publicat/sympos/2016/econsymposium-sims-paper.pdf
しかし、こんなのを読むほど暇な人はいないでしょうし、そもそも論文は専門家同士のやり取りなので、一般の人が読むものではありません。

以下、「上念氏のウソ」→私の指摘

  • 「FTPLを支持しても、金融政策無効論ではない」→シムズ氏は、財政拡大をやらない限り金利引きさげは効果がないと書いています。先ほどの論文15ページめ。
  • 「FTPLについての安達誠司氏の解説を元に分かりやすく解説します」→安達誠司氏は「FTPLが分からない」と言っていますが。

gendai.ismedia.jp そのうえ、安達誠司氏は2016年2月まではFTPLに否定的な見解を述べています。

  • 「FTPLは量的緩和のような金融政策を前提としている。うーん逆かも」→シムズ氏は量的緩和を否定しています。

blog.goo.ne.jp というか、量的緩和を前提としているのか補足としているのかはっきりしてください。

  • 「FTPLは金融政策がビルトインされている理論」→さっきの話とかぶりますが、金利がゼロになったら金融政策は無効、という話なので、リフレ政策とは矛盾します。さきほど挙げた15ページに「VI. CAN DEFICITS REPLACE INEFFECTIVE MONETARY POLICY AT THE ZERO LOWER BOUND?」と思い切り書いてあります。
  • 「財政政策をやらずに金融政策をすると、その効果が政府にばかり入ってくる」→シムズ氏は、「 For example, if interest rates are pushed into negative territory, and the resources extracted from the banking system and savers by the negative rates are simply allowed to feed through the budget into reduced nominal deficits, with no anticipated tax cuts or expenditure increases, the negative rates create deflationary, not inflationary, pressure.」と書いているので、マイナス金利の話です。

いやー、上念氏は反省してほしいもんですね。

卑劣なリフレ派

いよいよ馬脚を現した観のあるリフレ派。
彼らは公に意見を述べ、政策に影響を与えているにも関わらず、まともな論議を一切やりません。

批判されると、批判者はコミンテルンだの、リフレ政策が分からないから批判するだのと、議論の中身とは全く関係のないレッテル張りをして逃げ回ります。

私は本日、ツイッター安達誠司氏からブロックされたのですが、別に議論をふっかけたわけではなく、氏のツイートを引用しただけ。
ただそれだけで、ご注進する子分みたいな人間がいてブロックされるという、卑劣の極みのような党派であります。

2016年の経済政策は、これらリフレ系論者の意見を採用して失敗し、4月以降停滞しています。

この停滞は偶然ではなく、財政政策のやりすぎが生産の停滞を招くという指摘は経済学の中に普通に存在しています。

リフレ系論者は、「名目金利が上がらなければクラウディングアウトは発生しない」と矮小化して宣伝していますが、クラウディングアウトの原因はそれだけにとどまりません。
教科書的な説明だけで3つ、専門家によるその他の意見も複数存在しています。

実際問題、日本では名目金利の上昇がなかったにも関わらず、財政政策が効果を発揮しなかった例は枚挙にいとまがありません。

リフレ系論者は、「金融緩和をすれば財政出動にも効果がある」と主張してきましたが、第二次安倍政権の発足直後から金融緩和と財政出動を組み合わせてきましたが、目立った効果はありませんでした。

むしろ、3月ころに補正予算の執行が始まると経済が停滞するという傾向が毎年決まって観察されました。

そのような傾向はだれでも参照できるデータで出ているにも関わらず、どういうわけか2016年には一層財政政策を強化し、予想通り停滞を招きました。

リフレ系論者がポジション的利益を追求して財支出動をあおるのは理解できますが、安倍政権はどういうつもりでやっているのでしょうか?

私は青臭い人間ですが、財政政策の政治的な利用法が理解できないほど愚かではないので、おそらく安倍政権は政権安定のために財政政策を利用しているのだと思いますし、金融政策を抑えてしまったのも同じ理由だと思います。

しかし、政権を安定させるのは良いとして、何のために安定させているのでしょうか?

安倍政権が単に執権していたいタイプの政権であるなら理解できますが、昨年の集団的自衛権の騒動を考えても、やりたいことが何もない権力欲だけの政権とは思えません。

ふつうに推察すると、安倍政権の本懐は外交と安全保障の分野で結果を出すこと、すなわち外交的威信を高め、軍事力を強化し、比較的自立した国家であり続けることだろうと思います。

外交的威信を高めて、軍事力を強化し、周辺の脅威に備えるためには、経済を実際に良くしなければ背骨にならないはずなのですが。

政権安定のためとはいえ、経済を弱めてしまうような政策を採用して固執するのでは、本懐を遂げられないと思うのですけどね。

安倍政権自身、その辺の整理ができていないのではないかと思います。